この本は絵本ですが、作者五足萬さんの文章の清潔さにまず魅かれます。押しつけがましいところが少しもなく、言葉のそれぞれがしんと静かで、木洩れ日のような暖かさに満ちています。
私は作者と何度もお会いしていますが、それが、いつもこの作者から感じる話し言葉の印象とも重なります。作者の本名は大隅萬里子さん。私の友人、大隅良典さんの奥さんです。
萬里子さん自身も生命科学者として教授を務められた方ですが、この作品には、おそらく自身も研究活動に忙しく、子供を父親に任せざるを得なかった頃の感謝の思いもこめられているのでしょう。
自身の仕事のために、年老いた親の助けを頼らなければならない若い母親は多いと思いますが、そんな母親たちの思いをやさしく掬いとり、元気づけてくれる作品でもあると思います。
永田和宏(歌人・細胞生物学者)